2018年1月30日 活動紹介(エッセイ) リレーエッセイ(5) 近現代文学研究のご紹介 斎藤 佳子 私は、近現代文学の研究をしており、普段は日本のカトリック作家として知られる、遠藤周作を扱っています。戦後日本文学のなかで、キリスト教の影響を考察する、ということが私の研究の大きな枠組みです。 日本でのキリスト教の影響とは、単に個人の信仰対象としてだけではありません。例えば、明治以後、キリスト教は、西洋文化への憧れや、社会的弱者への救済という社会福祉の思想を支えるものとしてなど、さまざまな形で日本に影響を与えました。今でも、日本で聖書はベストセラーですし、キリスト教教育機関は数多くあります。キリスト教で神の子とされるイエス・キリストの生誕を覚え祝う日であるクリスマスも、日本ではすっかり12月のイベントとして定着しました。キリスト教徒の信徒数は日本の総人口の約1パーセントと非常に少ないですが、キリスト教は日本文化に広く浸透しているのです。 このようにして見ると、キリスト教の影響というものを広くとらえることが、キリスト教徒が少ない一方でキリスト教の影響を広く受けている日本では重要ではないかと考えられます。日本近代文学では、島崎藤村、芥川龍之介、太宰治をはじめ、多くの作家が、キリスト教徒ではないにもかかわらず、キリスト教を作品のなかに描いている一方で、戦後ははじめに述べた遠藤周作など、キリスト教徒の作家がキリスト教を描いた作品群の中では目立った活動をします。 私は、主に遠藤周作を研究していますが、今後、三浦哲郎、今東光などキリスト教徒以外の作家の作品にも目配りをし、戦後の日本文学におけるキリスト教の受け止められ方へと研究を展開できればと思っています。 私は博士課程後期課程から関西大学に所属しています。本学に入学してから思うことは、関西大学には研究する上で非常に恵まれた環境が揃っているということです。関西大学は、故谷澤永一先生の御功績のおかげで、日本近代文学研究史に大きな足跡を残しています。その伝統を引き継ぐ増田周子先生のゼミで研究発表をし、的確なご指導や仲間からの意見をいただくことで、少しずつ自分の研究が鍛えられていくことにやりがいを感じます。留学生も多く、様々な背景を持つ仲間と意見交換することができます。また、故谷澤先生、故浦西和彦先生の御尽力もあり、図書館には関西圏で一、二位を争う近代文学研究の文献が揃っています。館内には学生が使用できる研究個室があり、資料を探しやすい場所で研究に励むことができます。データベースから漏れているかもしれない資料を、実際に雑誌をめくり探すことが多いため、図書館の中で個人スペースが確保できるというのはとても助かります。課外時間に自主的に勉強会を開いている院生もおり、互いに刺激を与えあえる素晴らしい環境だと思います。 (さいとうよしこ・関西大学大学院博士課程後期課程・近代文学) 〔2018年7月5日掲載〕