2018年1月30日 活動紹介(エッセイ) リレーエッセイ(1) 司馬遼太郎『俄―浪華遊侠伝―』『城塞』研究紹介 ―大学院国文学研究室の相互交流をふまえて― 森 瑠偉 私は、平成25年12月14日に行われた関西大学国文学会において「司馬遼太郎『俄―浪華遊侠伝―』論 ―『小林佐兵衛伝』との比較を中心に―」と題して、司馬遼太郎の「俄―浪華遊侠伝―」と、その典拠である『小林佐兵衛伝』との関係について発表を行いました。その時の発表内容について簡単に説明し、さらに私たち大学院生がどのような環境で研究を行っているかを紹介したいと思います。 司馬遼太郎の小説「俄 ―浪華遊侠伝―」は、昭和40年5月15日から昭和41年4月15日にかけて『報知新聞』紙上において連載された小説です。この小説は、幕末から明治時代にかけて大阪で活躍した実在する遊侠、小林佐兵衛を主人公にして書かれました。作品での小林佐兵衛の人物造形は、『小林佐兵衛伝』を典拠として書かれ、この伝記に準じて書かれた部分は多数存在します。しかし、典拠にはなく、司馬自身が創作したオリジナル個所や加筆部分も多くあります。その一つが、幕末期に西大坂警備を行う小林佐兵衛です。紙面の都合上詳述できないですが、司馬が施した加筆個所やオリジナル部分を検討すると、作品では、幕末の争乱に関わりのない武士達の姿が、江戸幕府崩壊の一要因であるように書かれていることがわかります。司馬は史実に書かれる小林佐兵衛像だけでなく、独自の調査に基づいた想像力を発揮し、従来とは異なる視点で幕末期の様相を描いたのです。その視点は、司馬が同時期に書いた「竜馬がゆく」や「燃えよ剣」とは大きく異なり、「俄 ―浪華遊侠伝―」は同時代の作品の中でも一味違う光彩を放っています。 関西大学の大学院では、博士前期課程、後期課程あわせて10名前後の学生が近代文学ゼミに所属しています。私は司馬遼太郎の作品を研究していますが、井上靖、安部公房、広津柳浪、吉屋信子、室生犀星、陳舜臣、宮沢賢治、武田泰淳など、各自様々な作家を研究しています。近代文学ゼミでは、週一回、学生主体の自主ゼミを開いて発表を行い、活発な討論をしています。院生それぞれ、研究している作家が違うからこそ、学年に関係なく様々な視点でアドバイスを受け合い、自己の研究を発展させることができます。さらに、近代文学専攻者だけでなく、関西大学の大学院には、幅広い時代の日本文学を研究している学生が所属しています。司馬遼太郎は「城塞」という作品で真田幸村について書いていますが、江戸時代の講談で真田幸村がどのように伝えられたのか、江戸文学を専門に研究する先輩から話を聞くことができ、大いに参考になりました。このように、国文学の研究室では、様々な時代やテーマを専門的に扱う学生同士が交流し合い、それぞれの研究に大きな成果をもたらし、有意義な日々を過ごしています。 (もりるい・関西大学大学院博士課程後期課程・近代文学) 〔2015年6月15日掲載〕