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活動紹介(エッセイ)

リレーエッセイ(4)

「弔辞」の国語学的研究

利岡 真帆

 国文学専修博士課程後期課程の利岡真帆です。私が所属する国語学ゼミは日本語を研究の対象とし、音韻や語彙、文法などさまざまな研究を行っています。私は学部から関西大学で学び、卒業論文では「関西在住の日本語非母語話者の関西弁認識」というテーマで、関西にいる留学生などがどのように関西弁を認識し、また使用しているのかについて研究を行いました。大学院に進学してからは文学研究科副専攻「EU-日本学」のワークショップで異文化間比較を目的として「お悔やみことば」を取り上げたことをきっかけに、死者を悼むことばの歴史に関心をもつようになり、「弔辞」の研究に取り組むようになりました。
 弔辞は芸能人や作家、社長、教授など著名人の葬儀で読まれることが多く、その原稿は故人の哀悼録や、新聞、マナー本などの文例集に掲載されることがあります。そのようにして残された資料を収集したところ、1890年代から現在までの資料を400通程集めることができました。このように、弔辞は近代以降約100年間の資料が多数残されているため、弔辞の展開や、語彙、文体の変化について通時的に研究することができます。他にも、故人の属性(戦死者、社長、教授など)や故人と読み手の関係性が弔辞の中身にどのように影響を与えているのかという観点からも研究しています。
 また、日本の弔辞は故人に対して語り掛けている様子を会衆に聞かせるというスタイルを取りますが、キリスト教圏などでは牧師などの宗教者が故人の死の意味を会衆に語りかけるというスタイルが一般的とされています。そこで、日本の弔辞がどのような経緯で現在のようなスタイルになったのかといった観点からも研究しています。
 弔辞に対する研究はこれまであまり行われていなかったため、先行研究もなく、弔辞の定義から考える必要があり、難しいことも多々ありますが、これまで注目されていなかった言語資料としての「弔辞」がどのようなものであるかを示すことにより、スピーチ研究や、語彙史など他の研究にも役立つと考えています。また、弔辞のことばから、日本人の死生観や霊魂観などを明らかにし、民俗学などの他分野にも役立てたらと思っています。
 私の研究は、国語学でも珍しい題材ではありますが、同じ国語学のゼミ生もさまざまな時代や手法、テーマで研究をしています。現在、国語学ゼミでは、前期・後期課程合わせて18名前後の学生が所属しています。それぞれの研究は万葉集、古事記、日本書紀などの作品の語彙や文法、表記について研究している人や、近代期の語彙の変容、現代日本語の文法や方言などさまざまな時代、分野で「ことば」について研究しています。国語学ゼミでは週1回、先生方も含めた全員が参加する合同ゼミがあり、院生がそれぞれの研究テーマの発表を行い、活発な討論をしています。同じ国語学ゼミとは言え、時代や分野などが異なるため、自分だけでは知る機会がなかった種類の発表も聞く機会が与えられ、お互いに良い刺激を与える場となっています。
 国語学ゼミは日本語に関するあらゆるものをテーマにすることができます。「ことば」そのもののしくみ、あるいは「ことば」を通してそれを使用する人や社会について理解していくことができるのが、国語学を含む言語研究の醍醐味だと思います。

(としおかまほ・関西大学大学院博士課程後期課程・国語学)
〔2017年9月1日掲載〕